素通り

前職のオフィスの最寄り駅のJR改札を出て、地下鉄へ乗り換えるエスカレーターを降りたあたりの支柱の脇にいつもそのホームレスの初老の男性はいた。

キャップをかぶりリュックを背負って、Tシャツという格好で、強い臭気もないので、気にしなければホームレスとは思わないかもしれない。

最初は誰かを待っているのかと思ったけれど毎日同じ場所にいる。ホームレスだとわかったのは少しあとで帰宅時に駅近くで寝泊まりしているのを見たからだ。

ある朝、その男性が女性に話かけている。すれ違いで聞こえたのは、お金を落として困っていることだった。その女性がお金を渡したかまでは見ていないけれども、時々そうし声をかけてお金を恵んでもらっているようだった。

転職してからしばらくして、たまたまその駅へ降りた際にまたそのホームレスの男性を見た。

「あぁまだここでいるだ」と思ったが、被っていたが様子は違った。手にはビッグイシューを持ち掲げている。キャップもビッグイシューのものに変わっていた。

でもやっぱりその脇を素通りしていくのだけど。